『えきせんとりっく☆せりな』

   第0回「やっぱりパパが好き」    坂下 信明


 ──あたし、やっぱりパパが好き!
 フォトスタンドの写真を抱きしめて、せりなは思った。
 せりなは淡いブルーのパジャマ姿で、ベッドに腰掛けていた。風呂から上がってずいぶん経つが、なかなか寝つけないのだ。
「……だって、パパがまだ下でおしごとしてるから、せりなも寝られない……」
 そう口にしてから、かぶりを振る。
「……ううん、ちがう。そんなんじゃない。せりなは……ずっとどきどきしてるの」
 誰も聞くことのない言葉だが、せりなは自分に酔っているのでつい口に出してしまう。幼いころから、少女マンガに耽溺した結果だ。
「パパ……せりなのパパ……」
 あらためて、フォトスタンドに視線を落とす。親子三人で映っている、それは数少ない写真だった。背の高い青年と、優しそうな女性。その間にまだ三歳ほどの幼女が立っている。幸せな若夫婦の姿だった。
「ママ……ごめんなさい。せりなは、悪い子です」
 せりなは上を向いて、お祈りするように手を組み合わせた。
「ママが死んじゃってから、せりなはずっと、パパのことを……」
「せりな。起きてるのかい?」
「!」
 せりなは突然の呼びかけに心臓を止めてしまった。パパだ。パパがせりなが寝たかどうかを確認しにきたのだ。
 せりなはあわててフォトスタンドを枕元に置き、布団の中に身体を滑り込ませた。つけっぱなしだった電気を消すヒマもなく、すぐに目をきつく閉じた。
「……入るよ」
 ドアが開いて、写真の中の青年と同じ姿の男が入ってくる。写真よりはいくぶんか老けてしまってはいるが、実年齢が三十過ぎであることを考えれば、今でもかなり若く見える方だろう。せりなとお揃いのパジャマも、よく似合っている。
 室尾猛秋。せりなの父にして、独身。妻をなくしてはや五年、男手ひとつでせりなを育て上げているのだ。
 猛秋は部屋の電気がついていることと、せりなの力のこもったまぶたを見て、すぐに状況を察した。
「……また、マンガを読んでいたんだな」
「ちっ、ちが……」
 せりなはあわてて否定しようと身体を起こした。にこにこと笑っている猛秋の顔を見て、せりなは自分の失敗を知った。
「あっ、あうぅ……」
「せりな、パパと約束したよな、この前遅刻した日に」
「……ごめんなさぁい。でも」
「ん?」
 猛秋が微笑んだまま、せりなの顔を覗き込む。それだけでせりなは、耳まで赤くなってしまった。
「おや、風邪でもひいたんじゃ……」
「ちっ、ちがうの。せりなは、せりなは、パパがまだおしごとしてるから……」
「パパはおとなだから大丈夫だけど、せりなはまだ九歳なんだ。そんなことは気にしないで早く寝ないと、また寝坊しちゃうぞ」
 そして猛秋は、せりなの長い黒髪に手を伸ばす。せりなはびくっ、と身体を緊張させてしまう。
「……ほら、髪ももうすっかり乾いちゃってる。湯冷めして風邪をひくといけない。ちゃんとお布団に入って、寝るんだぞ」
「……はぁい」
 せりなは猛秋の触った髪の毛を、もじもじと指でいじりながら答えた。
「いい返事だ。じゃ、おやすみ」
「おやすみなさぁい」
 猛秋はにっこりと微笑んで、部屋を出た。その時に部屋の電気も消していってしまったので、せりなの部屋は闇に包まれてしまう。
「……天国のママ、ごめんなさい」
 せりなはぽふっ、とベッドに横になり、吐息をつきながら口にした。
「せりなはやっぱり、パパのこと、愛してるの……」 


 翌朝。せりなはあわてて飛び起きた。
「あーっ、もうこんなじかんだ!」
 ぱたぱたと階段を駆け降りると、猛秋がエプロン姿でキッチンに立っている。
「ほら、やっぱり寝坊したじゃないか」
「ごめんなさぁーい」
「それでも、朝御飯はきちんと食べていくんだぞ」
 猛秋は、昨晩とは違ってメガネをかけていた。ひどい近眼の猛秋は、メガネがなければ何も見えないに等しいぐらいである。昨晩は風呂に入る前だったから、外していただけのことだ。
 せりなは食卓について、トーストと目玉焼きにかぶりつく。なんてことはないメニューのはずなのに、猛秋の作った朝食はいつもおいしかった。あっというまに平らげる。
「あはは、さすが育ち盛り。作ってるかいがあるよ」
 そう言われてせりなは我にかえり、頬を染めた。心の中でつぶやく。
 ──もう、こどもあつかいばっかりして。
 実際に子供だからしょうがないのだが、せりなにはそれが不満なのだ。
 せりなの中の基準では、『恋をすれば大人になる』ということになっている。今、せりなは激しい恋をしているから、せりな的にはもう大人なのだ。たとえ九歳で、小学三年生だったとしても。
「ごちそうさまぁ」
 一瞬だけ手を合わせてそう言うと、せりなは椅子から降りて服を脱ぎはじめた。
「こらこら、またそんなところで着替えて……」
 パジャマを脱ぐのに必死なせりなは無言だ。
 せりなの裸体が、レースのカーテン越しの陽光に眩しく照らされた。
 幼児特有のぷにぷにとした肉感が愛くるしい。白いが健康的な肌を見て、すくすくと育っていっていることを確認すると、猛秋は満足げに微笑む。
 ──パパが、見てる……せりなのはだか、見つめてる……。
 しかし当のせりなは、その幼い肢体とはかけはなれた思いでいた。
 ──ほら、せりな、こんなにおとなになったんだよ……見て、もっと見て、パパ。
 猛秋の視線を感じて、せりなの肌が上気してゆく。うっとりと、裸なのに温かい感覚に包まれてゆき、せりなはしばらくパンツ一枚で立っていた。
「……こら、せりな。何をしてるんだ? 早く服を着なさい。また学校に遅れるぞ」
「あっ」
 せりなが時計を見てびっくりした。うっとりとしたまま、五分ぐらい立ち尽くしていたらしい。大急ぎで服を着ようとする。
「あうっ」
「……まったく、もう幼稚園児じゃないんだぞ。ほら」
 袖に手をうまく通せなかったせりなを見かねて、猛秋はつい手を出してしまう。子供に甘いのは自分でも充分承知していた。
「……きゃうぅん?」
「ど、どうした、へんな声出して」
 せりなが奇声を発したので、猛秋は手を止めた。せりなが真っ赤な顔で、首をかしげている。
「……いまの……なに?」
「いや、なにって聞かれても、なにが?」
「…………」
 せりなは首をかしげつづける。猛秋も同じように首をかしげたが、すぐ時計を確認してせりなを急かせる。
「時間がないぞ、せりな。パパも、もう行かなきゃいけない。あとは自分でできるな?」「……うん」
 せりなは心ここにあらず、といった様子でうなずいた。


 赤いランドセルを背負ったせりなはぼーっとしたまま、学校への道を歩いていた。
 もう遅刻は確定してしまっている。それなら、急ぐ方がもったいないとも言える。それにしても、せりなの足取りはおかしかった。
「……あのときと、おんなじかんじ……」
 せりなは歩きながら、自分の胸元を触ってみた。
「パパのゆび、ここにさわってた」
 同じように、自分でも触れてみる。なんだか違う。
「ちょくせつさわんないと、だめなのかなぁ」
 せりなはさすがに少し恥ずかしかったが、回りに誰もいないことを確かめてから、ブラウスの前から手を差し入れた。
「あ」
 せりなは立ち止まった。そうだ、この感じだ。せりなが夜、ぬいぐるみを股に挟み込んでぐりぐりする時に似た、むずむずとした感覚。
「にてるけど……パパのゆびのほうが、びりびりっ、てきた」
 その微妙な違いが不思議で、せりなは何度も何度も確かめるように乳首をいじり続けた。そうしていると、乳首がだんだんと膨らんでくるようだ。
「へんなの。でも、なんか、とまんない」
 せりなは片手だけをブラウスの中に入れていじるのに物足りなくなって、もっといっぱいいじりたいと思った。でも、さすがに道の真ん中でそんなことをするのは恥ずかしい、となんとなく思った。
 回りをきょろきょろすると、そこがいつも遊んでいる公園の側であることに気がついた。せりなは公園に入った。
 すぐに公衆便所の陰に隠れて、せりなはブラウスのボタンを全部外してしまった。ランニングシャツを見ると、ぽつん、と乳首が二つ膨らんでいるのがわかる。
「……どうして、こんなになっちゃったんだろう」
 シャツもまくり上げ、むきだしになった乳首をつんつんする。
「うわぁ……」
 さっきまでのもどかしい感じよりもかなり直接的に、その感覚がせりなを包んだ。せりなは思う存分、自分の乳首をいじり続けた。
「……ちょっと痛くなってきちゃった」
 ひりひりとした痛みを感じて、ようやくせりなはいじるのを止めた。止めはしたが、今度はむずむずと内腿を擦り合わせ始める。
「……くまさん、もってこればよかったなぁ」
 せりなの愛用しているクマのぬいぐるみは、今はせりなのベッドにいる。さすがに取りに戻るのは気が引けた。
「……くまさんじゃなくて、パパだったら……」
 せりなは愛するパパの顔を思い浮かべた。ぬいぐるみなんかじゃなくて、もしパパをおまたに挟んでみたら、どんな感じだろう。そんなことを考えてみた。
「……んっ」
 せりなの指が、再び乳首に触れた。
「これが、パパのゆびなの……」
 パパなら、ぬいぐるみと違っておまただけじゃなく、一緒に乳首もいじってくれるかもしれない。そんなことを想像しながら、せりなは指を動かした。
「あんまりいたくないよ、パパ。パパがしてくれると、あんまりいたくない」
 せりなは想像の中の猛秋に話しかけながら、乳首をつまんだ。さっきまではぷっくりと膨れていただけの乳首が、だんだんと硬くなってゆく。
「パパぁ、おまたも、おまたも……」
 言いながら、自分でスカートの下に手を入れる。木綿の白いパンツの上から、せりなの大事な場所をぐいぐいと押した。ぱぁぁっ、と世界が明るくなった気がした。
「パパ、パパぁ、せりなね、なんだかきもちいいの……」
 せりなは地面に膝をついた。立っていられないぐらい、気持ち良かった。じわじわと下半身から力が抜けてゆく。
「んっ、パパ、もっと、もっといじって」
 せりなは行為に没頭していった。誰に教えられたわけでもないのに、幼い少女がまさしく手さぐりで性に目覚めていく姿。それは背徳感漂う光景であったが、せりなにしてみれば『いけないこと』であるという認識はない。ただほんの少しだけ、誰かに見られたら恥ずかしいなと思う程度のことだった。
「……あ、おしっこ」
 せりなははっ、と正気にかえった。パンツを押しつけている指先に湿りけを感じたからだ。少しおもらししてしまったかも、そんなことの方が、せりなには屋外でオナニーすることよりも恥ずかしいことなのだ。
 しかしせりなはすぐに安心した。すぐ横にトイレがある。とりあえず、ここでおしっこすれば、これ以上おもらしすることもないはずだし、パンツをよごしてパパに怒られることもないはずだ。
 せりなは服を整え、ランドセルを下ろして、公衆便所の個室に駆け込んだ。ここのトイレはいつも臭いし、きれいじゃないけど、そんな贅沢を言っている場合じゃない。
「へんだなぁ、でかけるとき、ちゃんとトイレいったのに」
 疑問を感じつつも、せりなはパンツを下ろした。股のところを見ると、縦筋の染みがうっすらとついている。でもこのぐらいなら、パパにおもらしがバレることはないはずだ。せりなは安心してしゃがみこむ。
 だがしかし、おしっこは出なかった。
「あれぇ」
 せりなは首をかしげてパンツを上げた。確かにまだ、かすかにおしっこをしたいような感じがする。それなのに出ない。
「へんなのぉ……あ、なんか落ちてる」
 個室を出ようとしたせりなの目に、一冊の雑誌が飛び込んできた。
「マンガかなぁ」
 せりなは拾ってみた。たしかにマンガのようだが、せりなが好きな少女マンガとは全然違うようだ。リアルに描かれた女の絵は、せりなからしてみればかなりグロテスクで、かわいくもなんともない。
「あー、愛、って書いてあるー」
 それでも、せりなは表紙の文字に興味をひかれた。『愛』は、せりなの好きな言葉だ。その言葉にくっついている『欲』とか『淫』は、もちろん読むこともできない。
「これも、そーゆー本なのかなぁ」
 ここでいう『そーゆー本』とはもちろん、せりなの好きな少女マンガのことだ。しかしそれが『そーゆー本』では決してないことは、少しでもえっちな知識があればすぐに気づくはずである。そしてせりなには、そんな知識は微塵もない。
「…………」
 気持ち悪い描写がいっぱい載っている。いつものせりななら、そんなマンガはすぐに放り出してしまうはずだ。ただ、今のせりなはいつものせりなではなかったのだ。
「……ふうん」
 妙に納得しながら、食い入るように紙面を凝視する。もうすっかり、学校のことなんて忘れていた。
「こーゆーこと、しちゃうんだぁ……これが、『おとなの愛』なのかぁ」
 どきどきしながら、ページをめくりつづける。なんにも知らなかったせりなは、砂に水がしみ込むように新しい知識を吸収してゆく。
「……あ、おんなじことしてる」
 OLのオナニーシーンを見て、せりなは安心した。
「よかった、まちがってなかったんだ」
 じっくり読んでみて、せりなはおもらしかと思った液体がおしっこではないことまで、知ってしまった。
「……じゃあ、せりなもこうやってやってみよっ」
 せりなはパンツを再び下ろして、今度は脚も抜いた。脱ぎ去ったパンツをスカートのポケットにしまって、きょろきょろと見回す。
「あ、あそこにしよ」
 そう言って、ブランコに近づいてゆく。マンガの中では、OLは机に座ってオナニーしていたので、その代わりになるものを探していたのだ。
「きゃっ、つめたーい」
 金属製のブランコは、剥き出しのおしりにはひんやりと冷たい。だが、これからしようとしていることを考えると、そんなことはすぐにどうでもよくなった。
「……これが、せりなのアソコです」
 せりなはマンガの中のセリフを、名前だけ自分に変えて口にした。
「パパ、見ていてください」
 相手の名前もパパに変えた。言いながら、どんどん興奮していくのがわかる。
 せりなはブランコの上で腿を開いた。マンガでは修正が入っていて見えないが、現実のせりなのアソコはすっかり丸見えだ。
 脚を開いても、せりなのアソコは閉じたままだ。まだ肉付きがよく、ぷっくりとした縦の筋が九歳という年齢を感じさせる。
「ほら、こんなにグチョグチョになっています」
 言葉とは裏腹に、とてもぐちょぐちょにはなっていない。でもせりなは、セリフを復唱することによってどんどん気分を高めていった。
「せりなのクリトリス、どうなってますか?」
 両手でスリットを広げても、せりなのクリトリスは包皮を被ったままでどうもなっていない。第一せりなは、どれがクリトリスであるかさえ、把握していなかった。
「パパのことを思うと、ココがうずくんです」
 うずくという言葉の意味は知らなかったが、なんとなく理解できた。今のむずむずした感じが、うずくということなのだろう。
 せりなは押し広げたスリットに、指をはわせた。偶然クリトリスのあたりに指があたって、せりなはその場所を知った。一番気持ちよくて、敏感なところ。
「んっ、んふっ」
 あとは、マンガのセリフをなぞる必要などなかった。ただパパのことを考えながら、ひたすら気持ちいいところをこねこねした。
「あっ、ん、ぱ、パパぁ」
 指先にねっとりとした液体がこびりついてきたが、もう気にしない。せりなはそれが何なのか知ってしまったのだ。『愛液』──つまり、愛に関するものなのだ。だから汚いものではない。むしろ、素晴らしいものだとせりなは思った。
 くちくちとえっちな音をたてながら、せりなは包皮の下でわずかに硬くなったクリトリスをいじりつづけた。妄想の中では、その指はパパの指だった。
「パパぁ、もっと、いじって。せりなの、もっといじって」
 左手が自然に動いて、せりなのブラウスをはだけさせた。クリトリスをいじる右手にあわせて、乳首をこね回す。幼いはずの乳首が、つんと指を押し返した。
「んっ、やだっ、すごくきもちいい……」
 しゃらん、とブランコの鎖が揺れて音をたてた。せりなの腰が、自然に動いている。
「あっ、んっ、あ」
 ちゅぷちゅぷと指でスリットを掻き回し、せりなの頭の中が真っ白になった。
「んんんっ!」
 ぎゅっ、と太腿で手を挟んで、せりなは初めての絶頂に達した。びくっびくっ、と身体を震わせて、ゆっくりと鎖にもたれ掛かって脱力する。
「はぁっ、はぁっ」
 荒い息をついて、せりなはおまたから手を抜いた。
「はぁはぁっ……これが、愛のおしる」
 ぬるっとした自分の右手を見て、感慨深くつぶやく。それから、ぺろっと舐めてみた。ちょっぴりしょっぱかった。
「これが、おとなのあじ、なんだ……」
 せりなはうっとりとした。
「……パパぁ、愛してる」
 ブランコからずり落ちそうになって、せりなはブランコの鎖を強く握った。
「だから……いつかこんなこと、しようね」
 こうして、わずか九歳の少女せりなの、常軌を逸した日々がはじまった。



第1回へ続く